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2025.01.17
理事長・院長
石部裕一
1995年1月17日 午前5時46分、阪神淡路大震災が発生し、大切なものが数多く奪われたあの日から、今日30年を迎えました。尊い6,400名以上の方の命が犠牲となり、51万棟以上の建物が被害を受けるなど未曾有の災害の中、復興の力となったものは、『思い・願い・祈り』であったと思います。
昨年末、博愛病院横の県道の改良工事が終わり、新しい道が開通しました。道路予定地であった博愛病院の一部敷地では給水槽が移設されることになりました。新たな場所は、かつての汚水処理槽の跡地でした。そこには、ひっそりと灯籠が佇んでいました。高さは約1.5メートル。周囲の喧騒の中で、ほとんど目に留まることもない状況でしたが、まるで博愛病院を守ってくれているかのような歴史を感じる存在でした。ふと、その由来が気になり、Webで調べ始めました。当法人の職員にも情報を求めたところ、思いがけず多くの情報が寄せられ、この灯籠は織部灯籠、あるいはキリシタン灯籠と呼ばれているものであることが分かりました。
桃山時代、茶の湯の興隆とともに、露地の明かりとして石灯籠が使われるようになり、茶人好みの灯籠が新たに考案されました。その代表的なものが、古田織部正重然(1544〜1615)が考案したとされる織部灯籠です。それは花崗岩で作られた灯籠で、台座(基礎)、棹(竿)、中台、火袋、笠、宝珠(擬宝珠)の6部から成ります。古田がこの形態を創造した理由は不明ですが、竿石には十字模様や像が刻まれ、これをキリストの像として見立てられ、別名キリシタン灯籠として崇拝されるようになったそうです。大正末期から昭和初期にかけて、研究者や郷土史家の間でキリシタン遺物の研究熱が高まり、織部灯籠の一部をキリシタン灯籠と呼ぶようになったとのことです(資料1)(資料2)。現在、キリシタン灯籠は日本全国に百数十基存在すると言われています(資料3)。しかし、この説を否定する論文もあることを忘れてはいけません(資料4)。
鳥取県文化財ナビでキリシタン灯籠を検索すると、鳥取市上町観音院や栗谷町興禅寺、さらに西町二丁目松田邸前庭、気高町酒津東昌寺にあるキリシタン灯籠(有形文化財指定昭和32年4月16日)が紹介されています。その説明文には、江戸時代、潜伏キリシタンが礼拝したとされる花崗岩製の灯籠で、6部から成り立っているとあります。しかし、この灯籠は棹石だけを残したものだと考えられています。縦長の部分には彫り込みがあり、合掌する、一見キリスト教の聖者を思わせる像が浮き彫りにされています。また、興禅寺や個人宅に所蔵されているものには、上部にラテン文字の組み合わせが刻まれているそうです。
さて、博愛病院の灯籠は、伝えられるところによれば、かつて病院が米子市内にあった頃から存在しており、病院の移転に伴って移設されたようです。以前を知る職員からは、病院で亡くなった身内を偲んで、患者の家族から寄贈されたという噂が漏れ聞かれておりますが、詳細は不明です。また、これがオリジナルの織部焼なのか、あるいはそれを模倣して最近作られたものなのかも定かではありません。しかし、台座、棹、中台、火袋、笠、宝珠の6部は全て揃い、竿石の十字架の中央に刻まれた文様も鮮明に残っています。この意味にはさまざまな解釈があり、90度左に回転すると「Lhq」となります。これをヘブライ語に直すと「pti」となり、「patri」の略で「父なる神」を意味するようです(資料5)。
この度、広く病院でお亡くなりになった方への慰霊の意を込めて、玄関前のロータリーに移設しましたので、興味関心のある方はぜひご覧ください。また、この灯籠についての情報をお持ちの方は、博愛病院までお寄せいただけると幸いです。
『思い・願い・祈り』 それは、時間が経過しても、時代が変わっても、私たち人類のもつ「博愛」の精神であると感じます。
資料1 姫路のキリシタン遺跡の調査研究Ⅲ 姫路の「キリシタン灯籠」池田武弘 姫路日ノ本短期大学 播磨キリスト教文化センター p39~p45
https://himeji-hc.sakura.ne.jp/information/journal_of_studies/41ikeda.pdf
資料2 日本の古本屋 切支丹灯籠の研究(松田重雄 著) / 智新堂書店 / 古本
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=52266671
資料3 Amebaブログ 気奏堂だより キリシタン灯籠
https://ameblo.jp/kisokyoku459/entry-12518249512.html
資料4 広島修大論集 織部灯籠―「キリシタン灯籠」の遺品は存在しない― 第40巻第2号(人文)p49―113 松本真
https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&opi=89978449&url=https://shudo-u.repo.nii.ac.jp/record/657/files/KJ00004138638.pdf&ved=2ahUKEwjk056bt7WJAxU3ja8BHbobA9IQFnoECBMQAQ&usg=AOvVaw2rSwKOjAF7QZC0tKW6ZPLc
資料5 懐石椿亭(富山市)公式ブログ 茶庭の織部灯籠に隠された奇妙な文字
https://tsubakiteihonten.exblog.jp/26608370/